投稿原稿 & Publicity 豊田裕章(豊田歯科医院院長)  TOYODA DENTAL CLINIC
大阪保険医雑誌2008年11月号特集「食の向こう側」原稿 (2008・10・14)

はじめよう!広げよう!食育・食生活指導
       ~善循環の原動力となる生き方・食べ方をしていますか?~


























大阪保険医雑誌2008年11月号 「食の向こう側」 原稿

はじめよう!広げよう!食育・食生活指導

――善循環の原動力となる生き方・食べ方をしていますか?

キーワード&キーセンテンス

木の視点・森の視点

・自分でできることは自分でする・・・不便さの良さを見直そう!

・“食べるべきもの”が“食べたいもの”になるような食育を!

slow food より near food・・・距離感が大切

・地産地消よりも身土不二・土産土法

・飲み物にカロリーはいらない・・・近くの水を飲もう

・食べ物の形はできるだけ口の中で変えること・・・咀嚼の大切さ

・米・大豆・植物性発酵食品・魚介類こそ日本人の善循環型食生活の柱

・伝統を大切にした生き方・食べ方が私たちを守ってくれる

・平日は体の栄養、心の栄養・楽しみは週末に・・・ハレとケ 

               

はじめに

 有り余るほどのモノと情報の洪水の中で、私たちはいかに生きるべきか食べるべきか?大切なことをずいぶんと見失ってしまったような気がする。今一度、動物としての原点を見直すことが大切なのではないか!

地球上の人口が急増し、人間(とくに先進国の人々)の活動が、自然界のバランスを狂わせている今、自分自身の体や歯を守るための生き方・食べ方<木の視点>はもちろん大切だが、同時に、『できるだけまわり(の人、生き物、自然環境など)に迷惑をかけない生き方・食べ方<森の視点>を考えて実行しなければならない時代になっている』ことを、我々は痛感せねばならない。木を見て森を見ず、はもう通用しないのだ。

さらに言えば『善循環=自らの健康を増進し、地域の気候・風土を守り、国土を守り、豊かな地球環境を守ることすべてがつながり、持続していくこと』を広げる原動力となる生き方・食べ方が最も大切だ。

動 物 は

他の生き物の生命をいただいて(食べて)生きている

         自ら動く

         近くのものを利用して生きている


まず第一に、自分でやればできることは、ほかの誰か・何かにやらせないで=自分以外のエネルギーをできるだけ使わずに=“自分が動くこと”が重要である。仕事では、どうしても効率優先とならざるを得ないだけに、とくに私生活においては自ら動くことを心がけたいものだ。

運動不足とは スポーツ不足 だけではなく

                        自分でやればできることを 

他の誰か・何かにやらせて   

自分は動かない  こともいう

自らの健康のためと自然環境を守るために、私生活では

『不便なこと・面倒くさいことをいっぱいしていこう!』

そして、「衣食住は、近くのものでやりくりすること­=地産地消」とあわせて「気候風土に合った食べ方をすること=土産土法」をめざすことである。

【私たちは、あまりにも遠くの水・食べ物をとりすぎている】

日本においては、お米という主食と、大豆と植物性発酵食品(味噌、漬け物など)、魚介類を食生活の基本におくことである。また、良質の軟水に恵まれた日本では、地元の水(水道水)を大切に守り使うこと、遠くの水、とくに外国の水などできるだけ使わないことも大事だ。ペットボトルの水やお茶は、水道水の何と200~2000倍も高くつく飲み物なのである。外国の高価な水を、空気を汚しながら遠くから運んできて飲んでるようでは、善循環的な生き方はできないと思う。

そして、「できるだけもとの姿や形が残っているものを食べる」ことも大切だ。健康的で楽しい生き方を実現するための第一歩として「食べるべきものが食べたいものになるように、人々を導き育成する」ためには、どのような考え方や知識が最低限必要であるのか。そして、医院で食育に取り組むにあたり、すぐに実行できることは何か。これまでの経験を振り返りながら
考えていきたいと思う。

食育で何を育てるのか?

 食育とは、何を・どれだけ・どのようにして、誰と・どんな状況で、食べるか、ということを見つめ直し、まともな正しい食生活を実践していくことにより、

     丈夫な体 

     思いやりのある豊かな心、を育み、

     地球全体のことを考え、多様な生き物・豊かな自然環境を守っていこうと行動する生活様式を育成し確立していくこと  と私は考えている。

すでに述べたように、ヒトだけのこと①②だけで許される時代は終わっている。③なくして「食育」は成り立たずである。

何をどのようにして食べればよいのか?

 繰り返しになるが、「できるだけ、近くのものを気候・風土に合った方法で食べる」ことだ。“もの”も“やり方”も距離感が大切だ。

日本では、お米・大豆・植物性発酵食品・魚介類を中心とした食生活が基本である。(現在、主食用の米の自給率は100%だが、大豆の自給率は5%しかなく、日本の漁業は資源減少・国際競争激化・後継者不足で危機的状況である)

そして、咀嚼回数・唾液分泌量を増やしながら嚥下するためには、加工された状態でなく「もともとの姿のわかる食べものをできるだけ多く食べる」こと。食べものというのは、口の中で、自分のエネルギーを使って、歯と筋肉で咀嚼することでその形を変えること、がとても重要である。米は粉食のパンではなく粒食のご飯で、野菜・果物はジュースにしない、大きい魚の切り身より小魚全体を食べること、など。

また、日本の温暖で多湿な風土に適した、かび(麴かび)・酵母・植物性乳酸菌による発酵でできる調味料・食材(味噌・しょうゆ・鰹節・漬物など)を大いに利用する。

さらには、「口中調味」~うす味のごはんとしっかりした(だしの)味のついたおかずを、口の中で混ぜ合わせながら食べる~というやり方が、早食い・おかずの食べ過ぎ=脂質のとりすぎ、を防ぎ、よく噛みよく味わう食べ方を形成することも忘れないでほしい。

自らの歯や体の健康を守る食生活を実践するためにも、環境汚染を減らすためにも、まずこのルールを、子どもたちにも大人(保護者・親)にも、しっかり伝えるべきである。

“善循環”は、まさにここからスタートするのだ。

身土不ニ

風土異なれば食もまた異なるのであり、ヒトは、その生まれ住んでいる土地に生育するものを食べ、その季節に出来るものを食べるのが良いのである。

地産地消より土産土法

食の出発点は、ヒトも含めて動物は、他の生き物の生命をいただいて食べているということだ。それゆえ、食べ物=他の生き物の生育環境を守り、その存在への感謝を忘れてはならない。

       近くの物を食べること(地産地消)は、経時的な栄養素のロスを抑えることができ、、防虫・防腐対策も最低限ですみ、運送にかかるエネルギー消費も少なく、安全で地球環境を汚しにくい食べ方につながり、

       身近な(風土・気候に合った)やり方で食べること(土産土法)が、自らの体質(遺伝子のタイプ)に合った、歯にも体にも良い食べ方になるのだ。

 

①のみだと農業&環境問題に偏りがちで、①と②つまり産地と方法がセットになることで、健康問題もクリアできるのだ。

輸入小麦のパンより国産米のごはん、パスタ・ラーメンよりうどん・そば、スープよりみそ汁、チーズ・ヨーグルトより納豆・漬け物、サラダより煮物・和え物、ミルク・コーヒーよりお茶、がおすすめだ。カタカナよりひらがなのメニューを、そして、(大人は腹八分目で)おかずよりごはんが多くなるように食べよう!

歯を見れば食べ方がわかる

ごはんを多めに、というのは、日本人のDNA(体質)に合った食べ方になるのだが、歯の構成から考えてもたいへん理にかなっている。


新版・自然にかえる子育て(真弓定夫・芽ばえ社)より

       肉食動物には肉を引きちぎるためのとがった形状の奥歯(裂肉歯)があり、肉を引きちぎるとすりつぶさずに飲み込む。

       草食動物には裂肉歯はなく、奥歯(臼歯)は植物をすりつぶすのに適した形状をしている。

       人間の歯を、上顎左半分の8本で見ると、前の2本が切歯で、野菜・果実などの植物を食いちぎるための歯、その隣の1本が肉食動物の歯に似たとがった犬歯、残りの5本が植物とくに穀物をすりつぶすのに適した臼歯である。よって、野菜・肉・穀類を2:1:5の割合でとっていれば健康的な食べ方になる、というわけだ。

 

*農耕が始まって以降は、ヒトの臼歯は穀類を食べるのに適する、という考え方でかまわないが、農耕以前、とくに初期人類では、その考え方はあてはまらない。では、初期人類の主食は何だったのか?島泰三著『親指はなぜ太いのか~直立二足歩行の起源に迫る』(中公新書)では、意外なものがその答えとして登場する。人類は何を食べ、なぜ立ち上がったのか?ぜひお読みいただきたい隠れた名著である。

日本人に欧米型食生活はあわない

日本人の食生活と、欧米型食生活とは、気候・風土の違いから、大きく異なる。

① 北緯35度(日本)では最高の組み合わせの、お米と大豆だが、北緯50度(欧州)では育たない。欧州では、基本的食材として米と大豆は存在しないのである。

     日本では、良質の軟水が豊富だが、欧州では硬水が基本である。味を引き出しにくい硬水では、だしをとるという素晴らしい発想が出てこない。

     温暖で多湿な日本では、植物性乳酸菌による発酵(漬け物)であり、降雨量・湿度少なく涼しい欧州では、動物性乳酸菌を利用した発酵(バター、チーズ、ヨーグルト)である。また、日本では、かび(麹かび)をうまく活用した発酵食品が実に豊富である。

伝統を大切にした生き方・食べ方が、私たちを守ってくれているということを決して忘れてはならない。日本人は、ごはん中心食、欧米人はパン・肉・乳製品食で、お互いに、まねをするものではないのだ。

ハレ(ごちそう)とケ(日常食)

 しかしながら、年中毎日、伝統を守りながら体の健康中心でメニューを考えて食べること、は困難だ。心の楽しみも必要である。でも、今の日本では、うまいけど体には良くない!メニューも多いので、楽しみ中心の食事は週末程度が無難である。

「平日は体の栄養、週末は心の栄養」で食生活をアドバイスすると、人々に受け入れてもらいやすい。毎日がごちそう(ハレ)だと、節約型遺伝子の日本人は、生活習慣病になりやすいので注意しなければならない。

食生活指導を始める前に

 食生活指導を実践する上で必読をおすすめする図書を5冊紹介させていただく。(①は歯科医師向けに書かれたものだが、分かりやすい内容で、医師の先生方にも必要かつ十分役立つ内容となっているので、おすすめだ)

     はじめよう!歯科医院での食生活指導(幕内秀夫・医歯薬出版)

     保健・医療・教育に携わる人のための食育入門(根岸宏邦・メディカ出版)

     伝統食の復権(島田彰夫・東洋経済新報社)

     新版・自然にかえる子育て(真弓定夫・芽ばえ社)

     現代を生きぬく栄養学(吉田勉・芽ばえ社)  

医院での実践の前に

 

食育・食生活助言指導の実践に際しては、やはり最低10~20冊程度は熟読してほしい。関連するセミナーなどもできるだけ受講して勉強するべきである。学会などでの食育に関する講演もおすすめである。中途半端な知識で、あるいは狭い視野で食を語ることにならないようにしよう。

待合室におすすめの本

医院における実践では、まず、待合室の一部を食育・食生活情報コーナーにして、関連図書・ビデオ・資料・セミナー情報などを常設・掲示する。子どもから高齢者まで、各世代に適した図書を揃え、食の講演会ビデオなど、無料貸し出しも行う。

すでに紹介した5冊に加え、

     歯と食についての楽しい読み物『口の中の探検』岡崎好秀著・大修館書店

     JAグループの子ども向け雑誌『月刊ちゃぐりん』家の光協会、

     短い待ち時間でも読みやすい見開きQA方式の本『ああかんちがい!子どもの食事QA』幕内秀夫著・学研

   *子どもだけでなく大人にもとても役立つ内容だが、残念なことに絶版となっているようで、中古本でしか入手できなくなってしまったようである。

     1回読みきりの連載を集めた本『西日本新聞ブックレット・食卓の向こう側1~10』

など、待合室におすすめの本である。

資料の掲示

新聞・雑誌・インターネットなどで集めた情報や自分で作成した資料などを、短時間で読めるように、テーマごとにA4サイズ数枚にまとめ、プラスチックのレポートカバーをつけてカードリングに通して壁面からつるしている。食育関係のイベント・セミナーの情報を掲示板でお知らせする機会もできるだけ増やす。待合室の図書・資料などはすべて目を通し、大切だと思う部分には赤線を引き手書きでコメントを書き足し、既製品には院長の自己主張を加味すること、がとても大切だと考えている。



また、医院の案内パンフを、A4サイズ1枚で作製し、持ち帰り自由で待合室に常備しているが、裏面の半分に食生活のあり方についての提言を載せている。


問診表と指導管理文書の活用

 

問診表において、食生活に関する質問も用意しておき、さらには、患者さんに渡す指導管理文書として、食生活に関するアドバイスを記載した文書も用意する。そして、問診でたずねた内容とアドバイスとして記載した内容が連携していることが大切である。

問診表での質問項目としては、私の医院では、食に関するものとして、次の6項目を用意している。

     朝食を食べていますか?→はい・いいえ(はい、の人には)

     朝食の内容は?→ごはん中心・パン中心・その他

     ごはんをお茶わんで毎日何杯食べていますか?→4杯以上・23杯・0~1杯

     みそ汁はとっていますか?→毎日1杯以上・2~3日で1杯・週に0~1杯

     よく飲む飲み物は何ですか(複数回答可)→水・お茶・牛乳・ヨーグルト・コーヒー・紅茶・ジュース・スポーツドリンク・コーラ・炭酸飲料

     排便の回数は?→1日1回・2~3日に1回・週に1~2回

体の健康や地球環境の観点からも、日本においては地元(国内)でとれるお米=ごはん中心の食生活がのぞましい。しかし、問診の結果では、朝にごはんを食べる人は半数以下、毎日ごはんを3杯以上食べる人は3分の1ぐらいで、約3分の1が0~1杯、みそ汁を毎日1杯はとるという人も少なく、憂慮に堪えない状況である。食事はしているが、日本人としてまともな食生活をしている人の割合が減少し続けている。

間食(甘食)・甘味飲料のコントロールをうまくやるためにも、きちんと主食をとることが大切である。ごはんを毎日お茶わんで3~4杯程度がめやす、咀嚼指導の前に主食指導が第一である。

指導管理文書の活用

 患者さんに渡す指導管理文書として、食生活に関するアドバイスを記載した文書も用意する。そして、問診でたずねた内容とアドバイスとして記載した内容が連携していることが大切であることは、すでに述べた通りである。

幕内秀夫著『はじめよう!歯科医院での食生活指導』には、付録として配布用原稿「子どもの食生活テスト」や「子どもの食生活―8つの提案」などがついているので、これをコピーして患者さんにお渡しするのも簡便な方法である。私は、この子ども用の提案を大人にも使えるように5つに要約・修正した文書をコピーしたものに、患者さんごとのアドバイスも少し書き込んで再診月の初回や、終診時にお渡ししている。

[ むし歯・歯周病を防ぐ食生活 ]

     ご飯をきちんと食べる・・毎日お茶わん3~4杯がめやす!

     発酵食品を常に食べる・・みそ汁・漬け物・納豆は民族の宝

     パンの常食はやめる・・週末の楽しみにしよう!

     飲み物でカロリーをとらない・・飲み物は水・番茶・ほうじ茶・麦茶で

     未精製のご飯を食べる・・分づき米・胚芽米や雑穀入りご飯を!

以上5項目に少し解説を加えたものを、そして、子ども向けに、

間食(おやつ)は

     時間を決めて一日1回まで

     だらだら食べない

     もとの形がわかる食べ物を

     飲み物は水かお茶、

というコメントも書き加えたものをB5サイズ1枚にまとめ、患者さんにお渡しする文書として活用している。

ホームページの活用

 ホームページを開設している医院は多いが、食育に関する提言などを載せているものは極めて少ないのが現状だ。もったいないと思う。私の医院のホームページでは、一般的な医院紹介に加え、食育に関する提言、講演会・イベント情報、講演活動記録、過去の執筆原稿、推薦図書の紹介、などを掲載している。ホームページも、食育に関する提言・情報発信の重要なツールだと位置づけている。もちろん、医院のパンフレットには、ホームページのURLを記載している。

( 豊田歯科医院ホームページ=http://toyoda-shika.net/ )

おわりに

主食・間食(甘食)・甘味飲料のコントロールをうまくやるために、『平日は体の栄養、週末は心の栄養』をモットーに、柔軟に対応するように心がけている。食という大きなテーマのごく一部だけしかお伝えできなかったが、少しでも参考になれば幸いである。

-食生活を見直すこと、それはヒトと
地球の生命を“貯金”することである-



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