木の視点・森の視点  message & report 豊田裕章(豊田歯科医院院長)  TOYODA DENTAL CLINIC
大阪市学校歯科医会 会員研修会、発表台本 (2011・12・3)
  歯科からの食育 と 学校歯科保健の現場での活用・実践について



歯科からの食育(考え方と伝え方から最新情報まで)
   大阪市学校歯科医会 学術部員 豊田 裕章

毎年1回、小学校5年生・6年生に食と環境をテーマに特別授業をする機会があります。その時に、以下のような穴埋め問題を配布し、授業を聞きながら回答を記入してもらい、あとで答え合わせをしています。授業を聞けばわかる問題ばかりなので、ほとんどの子どもたちが正解を記入してくれます


【解答】 グローバル、ローカル、
1、約70、約10,2、善循環、3、微生物・植物、動物、微生物、4、他の生物の命、近くのもの、自ら、5、めんどくさい、もったいない、6、水、近くの水、7、もとの姿=命の姿、近くの、気候・風土に合った、8、米と大豆、植物性発酵食品、旬の野菜、魚介類、
定食=ごはん・味噌汁・おかずと漬物、★袋・箱・ペットボトル === 伝統


食育の考え方について・キーワード&キーセンテンス

・木の視点・森の視点・・・木も森も見る生き方
・自分でできることは自分でする・・・不便さの良さを見直そう!
・“食べるべきもの”が“食べたいもの”になるような食育を!
 
slow food より near food・・・距離感が大切・食の地産地消の前に、水の地産地消!
飲み物にカロリーはいらない・・・近くの水を飲もう
・食べ物の形はできるだけ口の中で変えること・・・咀嚼の大切さ
・米・大豆・植物性発酵食品・魚介類こそ日本人の善循環型食生活の柱
・伝統を大切にした生き方・食べ方が私たちを守ってくれる
・平日は体の栄養、心の栄養・楽しみは週末に・・・ハレとケ 

食育で何を育てるのか?

 丈夫な体 と 思いやりのある豊かな心、
  食べ物への感謝の気持ち、を育み、
③ 地球全体のことを考え、多様な生き物・豊かな自然環境を守って  いこうと行動する生活様式を育成し確立していくこと

①②だけで許される時代は終わっています。③なくして「食育」は成り立たずです。

現在の日本と世界の状況から『日本人の主食のあるべき姿』は

1、自給力のできるだけ高いもの(今の日本では、お米しかない)
2、油のできるだけ少ないもの(おかずで油減らしはむずかしい、パンよ  りごはん!)
3、ビタミン・ミネラルを少しでも多くとる(分づき米・玄米、麦や雑穀  入りごはんを)
4、咀嚼回数をかせげる物(もとの姿が残っているもの、粉食より粒食が  おすすめ)

一日3食のうち、最低1~2回は『定食』(ごはん・味噌汁・おかずと漬け物)を食べること・・・袋・箱・ペットボトルに入った飲み物・食べ物をとり過ぎないように

『歯科からの食育』

1、食(育&生活)の基本となる考え方
2、歯(の形態、並び方、咀嚼様式)からわかる食育
3、咀嚼・唾液の大切さから語る食育
4、歯(および口腔)を守るための食育
5、歯科医師、歯科医師会、の立場を生かす食育

     待合室の活用=資料や書籍の展示、問診表や指導書の工夫
     医院新聞・メールだより・ホームページの活用、
   健康展や公開講座の開催、

はじめに

今、日本では、子どもたちの食卓から、手づくりのごはん、みそ汁、魚料理、お茶、などが減り続けています。

コンビニのおにぎりばかりで、親の手づくりのおにぎりを食べたことがない子ども、家でお茶を沸かせない親、朝はパン食が定番で、みそ汁は週に1回とるかとらないか、あるいは、朝食はプリンやゼリーのみ、夕食もコンビニ弁当や外食が多い、レトルトや冷凍食品・ファストフードがおふくろの味の子どもたち、・・・

この50年で、国産のお米の消費量はほぼ半減し、朝食にごはん(和食)ではなくパン(洋食)を食べる家庭が増え続けています。同じ様なカロリーでも、ごはん食とパン食では、総エネルギーに対する脂質の占める割合には大きな違いがあること、パン中心のメニューではかなりの高脂肪食となることを、どれだけの人が理解しているのでしょうか。

 ごはんは、水分60%で脂質3%ほどですが、トーストパンにバターやマーガリンを加えたものは、水分30%台で脂質は30~40%となり、洋食系のおかずも高脂肪となりやすく、パン&洋食では高脂肪食となってしまうのです。




第2次大戦後、乳児死亡率の激減・食料不足の解消・生活環境の向上・医療技術の進歩などで、日本は世界一の長寿国になりました。しかし、ごはん(米)が半減し、肉・乳製品・油脂類が急増した食生活の変化(乱れ)が、日本人の生活習慣病やメタボリック・シンドロームの患者数を増やし、子どもや若者たちの体力の低下や心身の異常などの、大きな原因となっていることに間違いはありません。

“伝統を大切にした生き方・食べ方が、私たちの健康と地域の環境を守ってくれる”

ということを決して忘れてはなりません。伝統の良いところを守り、失われつつある日本人のあるべき姿を取り戻し、日本人の健康と環境、そして日本国の未来を守るべきです。

世界は今 

 地球上の人口が増加し、70億人を超えました。食料の生産はまだ十分あるのに、約10億の人々が、今も飢餓で苦しんでいます。約9億の人々が水不足で困っています。

人間(とくに先進国の人々)の活動が、自然界のバランスを狂わせている今、自分自身の体や歯を守るための生き方・食べ方<木の視点>はもちろん大切ですが、同時に、できるだけまわり(の人、生き物、自然環境など)に迷惑をかけない生き方・食べ方<森の視点>も考えて行動しなければなりません。木を見て森を見ず、はもう通用しないのです。

そして『善循環=自らの健康を増進し、地域の気候・風土を守り、国土を守り、豊かな地球環境を守ることすべてがつながり、持続していくこと』をめざし、「グローバルに考えて、ローカルに行動する」つまり、できるだけ広い視点から状況を判断し、それを身近な日々の行動に反映していくことが大切なのです。

動 物は    他の生き物の生命をいただいて(食べて)生きている
          自ら動く
          近くのものを利用して生きている

 食べ物は、工場などで(加工はできても)人工的にゼロから作ることはできません。自然の生き物の生命をいただくしかないのです。地球上の多様な生き物を守っていくために、食と環境の問題は、別々ではなく、一体となって考えていかなければならないのです。

そのための第一歩は、自分でやればできることは、ほかの誰か・何かにやらせないで=自分以外のエネルギーをできるだけ使わずに=“自分が動くこと”です。

それを“食べること”にあてはめると、食べものは、口の中で、自分のエネルギーを使って、歯と筋肉で咀嚼することでその形を変えること、が生きる基本だということです。咀嚼回数・唾液分泌量を増やしながら嚥下するためにも、加工された状態でなく「もともとの姿のわかる食べものをできるだけ多く食べる」ことが大切なのです。

米は粉食のパンではなく粒食のご飯で、飲み物はノンカロリーの水かお茶が基本で、野菜・果物はできるだけジュースにしない、大きい魚の切り身より小魚全体を食べること、などです。

さらには、「口中調味」~うす味のごはんとしっかりした(だしの)味のついたおかずを、口の中で混ぜ合わせながら食べる~という食べ方が、早食い・おかずの食べ過ぎ=脂質のとりすぎ=を防ぎ、よく噛み、よく味わう食べ方を形成することにつながります。

* 食感の違うものを口の中に入れると、より多くかむようになる!

そして、次に大切なことが「衣食住は、近くのものでやりくりすること­=地産地消」「気候風土に合った食べ方をすること=旬産旬消・土産土法」です。
“もの”も“やり方”も距離感が大切です。

のどがかわいたら、近くの水を飲もう!

良質の軟水に恵まれた日本では、地元の水(水道水)を大切に守り使うこと、遠くの水、とくに外国の水などできるだけ使わないことも大事です。ペットボトルの水やお茶は、水道水の何と、200~2000倍も高くつく飲み物なのです。

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   『あと10年で地球を救う12の考え方』(洋泉社)より

何をどのようにして食べればよいのか?

近くの物を食べること(地産地消)は、経時的な栄養素のロスを抑えることができ、防虫・防腐対策も最低限ですみ、運送にかかるエネルギー消費も少なく、安全で地球環境を汚しにくい食べ方につながり、

身近な(風土・気候に合った)やり方で食べること(土産土法)が、自らの体質(遺伝子のタイプ)に合った、歯にも体にも良い食べ方になる

①のみだと農業&環境問題に偏りがちで、①と②つまり産地と方法がセットになることで健康問題もクリアできるのです。

日本では、お米・大豆・植物性発酵食品・魚介類を中心とした食生活が基本です。
輸入小麦のパンより国産米のごはん、パスタ・ラーメンよりうどん・そば、スープよりみそ汁、チーズ・ヨーグルトより納豆・漬け物、サラダより煮物・和え物、がおすすめです。カタカナよりひらがなのメニューが多くなるように食べましょう!

身土不ニ・旬産旬消

風土異なれば食もまた異なるのであり、ヒトは、生まれ住んでいる土地に生育するものを食べ、その季節に出来るものを気候風土に合った方法で食べるのが良いのである

歯を見れば食べ方がわかる

粒のごはんをしっかり食べることは、日本人のDNA(体質)に合った食べ方になるのですが、歯の構成から考えてもたいへん理にかなっています。

肉食動物には肉を引きちぎるためのとがった形状の奥歯(裂肉歯)があり、肉を引きちぎるとすりつぶさずに飲み込む

 草食動物に裂肉歯はなく、奥歯(臼歯)は植物をすりつぶすのに適した形をしている

 人間の歯を、片顎半分の8本で見ると、前の2本が切歯で、野菜・果実などの植物を食いちぎるための歯、その隣の1本が肉食動物の歯に似たとがった犬歯、残りの5本が植物とくに穀物をすりつぶすのに適した臼歯である、

よって、野菜・肉・穀類を2:1:5の割合でとっていれば健康的な食べ方になる、というわけです。


農耕が始まって以降は、ヒトの臼歯は穀類を食べるのに適する、という考え方でいいのですが、農耕以前、とくに初期人類では、その考え方はあてはまりません。では、初期人類の主食は何だったのでしょうか?島泰三著『親指はなぜ太いのか~直立二足歩行の起源に迫る』(中公新書)では、意外なものがその答えとして登場します。人類は何を食べ、なぜ立ち上がったのか?ぜひお読みいただきたい隠れた名著です。

日本人に欧米型食生活はあわない

日本人の食生活と、欧米型食生活は、気候・風土の違いから、大きく異なります

     北緯35度(日本)では最高の組み合わせの、「お米と大豆」だが、北緯50度(欧州)では育たない。欧州では、基本的食材として米と大豆は存在しない

     日本では、良質の軟水が豊富だが、欧州では硬水が基本である。味を引き出しにくい硬水では、美味しいだしをとることができない。

     温暖で多湿な日本では、植物性乳酸菌による発酵(漬け物)が中心で、降雨量・湿度少なく涼しい欧州では、動物性乳酸菌を利用した発酵(バター、チーズ、ヨーグルト)が中心であり、とくに日本では、かび(麹かび)を活用した発酵食品が実に豊富である


沖縄の現実

国の政策によって、健康的な伝統食の習慣を奪われて、欧米型の食生活を強いられたアメリカインディアンの人々は、世界に先駆けて不健康になり、肥満・糖尿病などの生活習慣病に苦しんでいます。アメリカインディアンと日本人は、人種的には祖先が同じ親戚民族で、同じことが日本(沖縄)でも起きているのです。

 かつては長寿世界一だった沖縄の人々の平均寿命は近年低下し、男性は2000年には全国で4位から26位に急落しています。(26ショック)こうした沖縄の人々の変化の最大の要因は、食生活の変化だと考えられています。

 アジアで、米を主食とする文化圏で真っ先に食生活の欧米化が進んだ地域が沖縄で、米軍の統治がもたらしたアメリカの食物・食文化の流入により、若い世代でファストフードや加工食品の摂取量が多くなり、60年代以降脂肪摂取量が急増し、98年には摂取カロリーの31%が脂肪となっています。そして、30~40歳代を中心に肥満が増え、心筋梗塞などが増加しています。

 こうした栄養状態の変化と、車を多用し自分で動くことが少なくなったことなどが、沖縄の平均寿命を低下させ、肥満率や、生活習慣病の発症率を上昇させていったようです。

 やはり、脂質を過剰に摂取しないことは、日本人の健康を守るうえで大切なことであると考えられます。(参考:琉球大学医学部等々力英美准教授らの研究「チャンプルースタディー」)

学校給食を考える

 私が小学生の頃(昭和38年~44年)は、学校給食はすべてパン食でしたが、朝食がパン食である家庭は、きわめて少なかったように思います。現在、学校給食は、米飯が増え、全国平均で週に約3回が米飯給食です。かわりに、朝食がパン食である家庭が、増え続けています。

例えば、明石市(週3回米飯給食)の児童数553名の某小学校の2008年の調査では、子どもたちの朝食は、53%がパン食、32%がごはん食、4%がごはん・パン食となっています。家で朝、パンを食べている子どもは、給食がパンの日は、一日3食のうち2回がパン食となります。これは、どう考えても異常です。学校給食のパン食は、遠くで生産された輸入小麦粉が材料であり、パンという遠くの食べ方です。土産土法からみても、週に何回も、パン食を朝昼一日2回も食べるなど、おかしいと思います。日本人の食の無国籍化、質の低下を招きます。

 例えば、フランス人やドイツ人の子どもが、家庭での朝食にも、昼の学校での給食にもごはんとみそ汁を食べていたら、どうでしょうか。やはり変です。今の日本では、こうしたおかしな状況が続いています。

教育の一環である学校給食で、子どもたちにパン食を提供することの意味・必要性の有無を、今こそ再検討すべきではないでしょうか。日本の様々な状況を総合的に判断すれば、学校給食は、完全米飯に近づけていくべきだと思います。

伝統を大切にした生き方・食べ方が、私たちの健康と環境をを守ってくれている

ということを決して忘れてはなりません。日本人は、ごはん・大豆中心食、欧米人はパン・肉・乳製品食で、お互いに、まねをするものではないのです。

【事例1:長野県上田市真田町】

かつて、飲酒・たばこ・いじめや不登校で荒れていた校区を、ごはん給食(完全米飯給食)と花壇作りで「非行ゼロの校区」に変えた。学力も向上し、全国学力テストでも子どもたちが平均点より高得点を取るようになった。1992年以降、その改革の中心となって活躍した元教育長の大塚貢氏は、今、全国各地から講演依頼を受けている。

【事例2:兵庫県川西市】

 平成22年9月から、阪神圏で初めて、市内公立小学校・特別支援学校17校約9300名の学校給食の完全米飯化を実施した。主食がごはんとなり、おかずのメニューも豊富となり、子どもたちの食べ残しが減った。ごはんは、パンよりも腹持ちがいいので、子どもたちは、帰宅後も空腹感をあまり感じず、おやつもひかえめにでき、夕食をしっかり食べることができるようになった。(川西市歯科医師会は、完全米飯給食実施のために会全体で取り組み、その実現に大きく貢献している。)

学校歯科保健を考える

1、 現状・問題点の認識

学校歯科保健の現状

   子どものむし歯は減り続けているが、子どもたちの体力の低下や心   身の異常が問題となっている→歯みがき・フッ素だけでは子どもた   ちは元気にならない

学校歯科医側の問題

健診を行うだけで精一杯?それ以外の目立った活動がまだ少ないのではないか?
歯・咀嚼の事は語れても食全体のことはあまり語れない歯科医が多いのではないか。
よって、学校栄養教諭との連携をしようという発想が不足している

今、大切なことは

  子どもたちが、自らの判断・選択と行動で、元気で健康な生き方    がきるようになるためには、何をどうするべきか、誰に何をどの    ように伝えるべきか?

健康観の確立

  健康とは?健康な生き方とは何か?・・・問われて即答できるか   「木を見て森を見ず」ではなく「木も森も見る」視点に立つこと

人類700万年、衣食住に関しての不変の原則とは

   「近くのもの」で生きること・・・・身土不二

「近くのやり方」で生きること・・・気候・風土を大切に

2、改善・向上のための対策の考案

     子どもたち&保護者

     学校教職員、特に担任の先生・養護教諭&栄養教諭

     学校医、学校歯科医、学校薬剤師

     地域の方々

     行政・教育委員会

お互いがつながり→顔と名前がわかる関係から始まる!
協力する、緊密に連絡・情報交換できること
FAXE-メールなども活用していく

3、実行 
   知識・情報の伝達 & 行動変容につながる企画力・実践方法

   既存のプログラム・イベントの活用
② 新たな活動を始める

     給食だより・通信・新聞
     地域の人・地域の話題を取り上げる、地域へ配布する
        学校のホームページ・掲示板・ブログなどの開設、
     メールの活用

     校内農園・地域農園での農業体験・調理体験、
     子どもたちが作る“弁当の日”

      学校歯科検診時におけるスライドショーの上映
     地域の健康展でのパネル展示、スライドショー、
         学校保健大会でのオープンセミナー、
     校区単位での講演会・料理教室の開催

     公民館・地域ネットワーク委員会との連携・協力
            サークル・ボランティアの方々との連携・協力  など

②いつでも、どこからでも、お呼びがかかったらすぐに行動できるように 資料の作成・まとめ、スライドの作成・修正に日々取り組み、 常にスタンバイの状態にしておくこと!

メールでの学校歯科だよりの発信

 2010年度より、学校歯科や食育などの話題が出た時に、校長・教頭・養護・栄養の先生方あてに、記事を作成して『学校歯科メールだより***号』とタイトルをつけて送信しています。

過去の記事としては、スポーツドリンクに関すること、朝の歯みがきによるインフルエンザ予防効果、食育フェスタの開催案内、子どもの歯に関するおすすめホームページ紹介、などがありますが、最近は、発信ができていないので、もう少し頑張って記事を作ろうと思っています。

学校健診時のスライドショー-

学校健診時に、子どもたちが順番を待っている時間を活用しようと思い、資料に、解説をつけたスライドを1枚あたり15秒の自動送りにして、スライドショーを上映しています。1分で4枚、15分で60枚、これを2回上映して30分となります。保健室のコーナーで健診を行い、真ん中ではスライドを上映し、子どもたちは、口の中を診られている時に流れたスライドも、見逃しのないように、同じものを2回上映しています。子どもたちと一緒に、担任の先生も見てくれるので、先生方への啓蒙にも少しは役立っているかなと思っています。


歯科検診の途中で子どもたちに解説をしています


すごい弁当力!広げよう『弁当の日』

子どもたちの食生活をより良き方向に変えていくために、すぐに実行できて、大きな効果が期待できる方法があります。それが『弁当の日』です。

2001年、香川県の滝宮小学校で竹下和男校長先生が、5・6年生を対象に子どもが自分で作る「弁当の日」を始めました。

「弁当の日」は、献立、買い出し、調理、弁当箱詰め、後片付けまでのすべてを子どもだけでするというものです。子どもだけでなんて無理じゃないかと、親も心配していたのですが、年に数回の実施でも、「弁当の日」を通して子どもたちは変わり始め成長し、食べ残しが激減、食べ物や家族への感謝の気持ちが育ち、親子の会話が増えることで、家庭の時間がとても豊かになりました。「弁当の日」の経験を通し,誰かのために弁当をつくる喜びに目覚めた子どもたちが、家庭に「くらしの時間」を生み出し、家族を結びなおしているのです。そして、「弁当の日」は全国の小中学校、高校・大学にも広がって、2011年11月で実践校は46都道府県800校近くになりました。

特に、九州地区は、西日本新聞社が、人気特集「食卓の向こう側」で、「弁当の日」を大きく取り上げたことで、実践校が最も多い地域となっています。宮崎県は全県で弁当の日を広めていくこととなり、実践校は150校を超えています。

自治体丸ごと取り組んでいるところもあり、栃木県の宇都宮市も、市内のすべての小中学校で、弁当の日を実施しています。(参考図書1)

学校給食を完全米飯にして、おかずのメニューも豊富になって子どもたちの食べ残しが減った川西市では、歯科医師会も熱心に食育に取り組んでいます。多田東小学校で始まった弁当の日は、子どもたちに大好評です。

子どもたちが手にしている弁当は、すべて自分たちの手作りです。


川西市立多田東小学校の弁当の日
古川君の弁当、発想に脱帽です!(写真提供:福田靖弘校長先生)

「弁当の日」の効果は、子どもたちだけのものではありません。秋田県の会社社長石田哲治さん(87才)は、認知症状が現れ始め記憶が薄れて、夫が誰かもわからなくなりつつあった妻(88才)に、一緒に弁当を作ろうと呼びかけ、弁当作りを続ける事で、表情の乏しくなった妻の顔に精気が蘇り、会話ができるようになってきた、と新聞に投稿され、「妻の最近の様子を見て、つくづく感じます。何か目に見えない大きな存在が弁当の中にきっとある」と述べられています。(参考図書2)

 岡山大学小児歯科学教室の岡崎好秀先生も「弁当の日」の効果に注目され、「弁当の日」応援団として、各地で「弁当の日」の実践を提言されている。(参考図書3)

関西エリアでも、「弁当の日」が、学校だけでなく家庭や職場にも広がり、楽しい人間関係と豊かな社会をつくっていくきっかけになることを願い、私も微力ながら、地域の小学校などで、弁当の日の実践を呼びかけていこうと思っています。

【弁当の日・参考図書】

1、できる!を伸ばす 弁当の日(竹下和男編著)共同通信社

2、もっと弁当力(佐藤剛史著)五月書房 

3、食育最前線 弁当の日(松風歯科クラブ2010年10月発行)

[食に関する推薦図書]

     わらのお話 船越康弘講演録(船越康弘・百姓屋敷わら)

     新版 伝統食の復権(島田彰夫・不知火書房)

     親指はなぜ太いのか 直立二足歩行の起原に迫る(島泰三・中公新書)

     子どもの食事 何を食べるか、どう食べるか (根岸宏邦・中公新書)

     じょうぶな子どもをつくる基本食(幕内秀夫・講談社)

     西日本新聞ブックレット『食卓の向こう側・第13部 命の入り口 心の出口』

     太ったインディアンの警告(エリコ・ロウ・NKK出版)

     日本の食糧が危ない (中村靖彦・岩波新書)

*豊田歯科医院のホームページでも、食育に関する情報・過去の執筆原稿・推薦図書などを紹介しています。http://toyoda-shika.net/

 

-食生活を見直すこと、それはヒトと地球の生命を“貯金”することである-

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